About

Top | About

あの壁がなければ
このアプリは
生まれなかった

私には二人の娘がいます。長女は2歳にもなるとぺらぺらお話をしていましたが、次女は全く言葉が出てこないため、コミュニケーションがうまくとれませんでした。名前を呼んでも振り向かないため、1歳半ごろから難聴を疑いました。しかし、何度聴力検査をしてもパスするため、難聴ではないと診断されました。
 
その後、発達クリニックを受診することになりましたが、当時は数ヶ月待ちでした。一時でも早く原因が知りたいのに、もがいているだけで何も前に進みません。長女が言った「妹とお話をしたい」という一言は今でも忘れません。「いつか、お話が出来るようになるよ」と、何の確信もなく伝えました。
 
途方に暮れていたある日、言語聴覚士の先生から「難聴かもしれない」と告げられました。ある意味この言葉を待っていた自分がいました。脳波を測定する検査と遺伝子検査をしたところ、「オーディトリー・ニューロパチー(以下AN)」という種類の難聴だと分かりました。この時、次女はすでに4歳になろうとしていたのです。

焦りから、工夫へ

 

壁の向こうには、さらなる壁が

 
幼児教育において、0歳から6歳が最も大事だとされており、脳の成長と共に知性が形成されると聞きました。ところが、次女が人工内耳をして言葉が聞こえるようになったのは5歳半ごろです。5歳からようやくろう学校に通うことになりましたが、知性が形成される大事な時期に言葉を理解しないまま過ごしたとなれば、親が焦るのは当然です。
 
もう少し詳しく説明すると、次女は4歳で難聴だと診断され難聴専門の療育機関に通い始めましたが、実はまた困難が立ちはだかったのでした。それは、人工内耳適応基準の壁です。AN難聴は人工内耳が有効であることがすでに分かっており、手術をすればかなり聞こえるようになります。ただし、手術が出来るのは聴力レベルが90dB以上の重度難聴か、語音明瞭度が50%以下という基準があります(正確にはもう少し詳しい基準があります)。次女の聴力レベルは40dB〜50dBくらいの中等度難聴なので適応基準に当てはまりません。語音明瞭度を計測するには、五十音を1文字ずつ聞いて、何と言ったのかを当てる必要があります。言葉がまだ分からない幼児に対して、このような検査が不可能であることは明らかです。それなのに、小児人工内耳の適応基準には、語音明瞭度について言及されているのです。
 
しかし、親としては諦める訳にはいきません。言語聴覚士の先生と相談し、「あ段」だけを使った簡易的な語音明瞭度検査を自宅で行い、半年間データをとりグラフにまとめました。主治医にデータを見せたところ、人工内耳の手術をしてもらえることになったのです。
 

 
 
 

出来ないなら、工夫する

聞こえる子どもは、毎日家族や友だちと話したり、テレビや街中から聞こえてくる言葉を聞いて、自然と話せるようになります。しかし、聞こえない子どもや聞こえにくい子どもは、意識的に言葉を覚える家庭学習が必要になります。そのため、絵日記を書いたり、言葉カードを使って学習したりします。
 
次女も他の難聴児と同じように学習を始めました。しかし、4年以上の遅れをとっているため、小学校に入るまでに覚えなければならない言葉が山のようにあります。毎日朝から夜まで、隙間時間を見つけてテキストとノートを広げて勉強をしますが、まだ小さい子どもですから集中力が続きません。また、テキストに書かれたイラストを見ても、今ひとつピンとこない時もあります。
 
そこで、身の回りのものを写真に撮って、パソコンに取り込み、オリジナルの言葉カードを作りました。すると、自分が使っている「はさみ」や「セロテープ」などを見て喜んでカードを見るようになりました。しかし、子どもは小学校にあがるまでに3,000語以上の言葉を覚えると言われています。それだけ多くのカードを自分で作るのはさすがに難しいのではないかと考え、スマホアプリを探すことにしました。
 
写真編集アプリを使ってテキストを入力したり、単語カードアプリを使ってみたりしましたが、子ども言葉を覚えるのにちょうど良いアプリがありません。日本語だけでなく英語のアプリも探しましたが、どこにも見当たりません。これは、自分で作らなければならないのだと実感したのでした。
 
2019年9月に企画書を作成し、仕事でお世話になっていた株式会社 夢現舎に相談を持ち込みました。開発途中の試作アプリを次女と使いながら、細かい機能の調整を進めたところ、言葉を覚えるスピードが速くなったのを実感しました。そして、2020年3月についに「Vocagraphy!(iOS版)」をリリースしました。